【ヤシガラチップ】値段では選べない|「あく抜き」の有無で中身がここまで変わる

ココヤシの実の殻。繊維が幾重にも層になっているのが見えています

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「観葉植物の土に混ぜるヤシガラチップ、どれを買っても同じでしょう」

そう思って、いちばん安いものを選んだことはありませんか。逆に、高いほうが間違いないだろうと考えて、値段で選んだ人もいると思います。

ヤシガラチップは、ココヤシの実の殻を砕いた植え込み材です。軽くて、水はけと通気性がよく、観葉植物の土に混ぜたり、単体で植えたりします。

ところが売り場に並ぶ製品は、1リットルあたりの値段が10倍以上ちがいます。同じ「ヤシガラチップ」という名前なのに、です。

多くの人は、高いものほど手間をかけて作ってあるはずだと考えます。それも一理あります。ただ、それだけでは説明できないことが起きています。

実は東京都の研究機関が、市販されている8製品を集めて、中身を測っています。値段も一緒に記録されています。

結果を先に言うと、いちばん高い製品より、その3分の1の値段の製品のほうが、塩けもカリウムも少なかったのです。

この記事では、その調査を手がかりに、ヤシガラチップの何を見て選べばいいのかを順番に見ていきます。読み終わるころには、売り場で袋のどこを確認すればいいかがわかります。


目次

ヤシガラチップってなに?

ココヤシの実は、外側が分厚い繊維の層でおおわれています。その繊維をほぐして粒状にしたものが、ヤシガラチップです。

同じココヤシから作られる資材に、もっと細かい粉状のものもあります。こちらはココピートと呼ばれます。粒の大きいほうがチップ、細かいほうがピートと考えてください。

園芸で使われるのは、軽くて水はけがよく、それでいて水も抱えられるからです。土に混ぜると、すき間が増えて根が伸びやすくなります。

もうひとつ、ピートモスとよく比べられます。ピートモスは一度しっかり乾くと、水をはじくようになります。

ヤシガラは、そこまで極端ではありません(→ ピートモスが乾くと水をはじく理由)。


「あく抜き」って何をしているの?

袋を見ると、「あく抜き」と書いてあるものと、書いていないものがあります。ここが今回いちばん大事な部分です。

ココヤシの実は、海辺で育ちます。そのため殻には、もともと塩けの成分がしみこんでいます。カリウムという肥料の成分も、たくさん含まれています。

さらに、タンニンという渋み成分も入っています。渋柿の渋と同じ仲間です。

これらを水で洗い流す工程が「あく抜き」です。製造元のフジックは、この加工で特許を取っていて、あく抜きすると赤褐色の水が出ると説明しています。

洗う工程には時間と水がかかります。だから、あく抜きしてある製品のほうが高くなる。ここまでは値段の話として筋が通ります。


塩けが残っていると、どうなるの?

ここで少し不思議な話をします。土の中の塩けが濃いと、植物は水があるのに水を吸えなくなります。

わかりやすい例が、ナメクジに塩をかけたときです。まわりの塩けが濃いと、体の中から水が引っぱり出されていきます。

根でも同じことが起きます。土の水に塩けが多いと、根から水を吸い込む力が働きにくくなる。水やりをしているのに、しおれた状態になります。

東京都の別の調査では、トマトの苗でこれを実際に確かめています。土に溶けた塩や肥料分の量を段階的に上げていったときの記録です。

土に溶けた塩や肥料分の量苗に起きたこと
2.0下のほうの葉が黄色くなり始めた
3.0株全体が黄色くなった
4.0枯れる株が出た

※数値は電気の通りやすさで測った値(単位はmS/cm)。値が大きいほど、溶けているものが多い状態です。

2.0を超えたあたりから、目に見える形で不調が出ています。ここを覚えておいてください。あとで効いてきます。


8製品を測ったら、値段と中身が一致しなかった

東京都農林総合研究センターが、特徴の異なる市販ヤシガラを8種類集めて分析しています。値段、粒の大きさ、あく抜きの有無が、製品ごとに記録されています。

そのうち、値段と中身の関係がはっきり出た4つを並べます。

調査での値段(1Lあたり)あく抜き溶けていた塩や肥料分カリウムの量
195円(最高値)してある0.48596.6
150円していない4.922269.3
120円してある0.89786.8
66円してある0.36481.3

※東京都農林総合研究センターの調査時に記録された価格と測定値です。カリウムの量の単位は mg/100g。値段は調査時点のもので、いまの店頭価格とは異なります。

いちばん下を見てください。1リットル66円の製品が、塩けもカリウムも8製品の中でいちばん少ない。

そして上から2番目。150円という高い部類の製品が、どちらもいちばん多い。この製品だけ、あく抜きがされていません。

ただし、報告書が製品に総合順位をつけているわけではありません。粒の大きさや水はけは別の話なので、「この製品がいちばん良い」とは言えません。ここで比べているのは、塩けとカリウムの量だけです。

さっきのトマトの話を思い出してください。枯れる株が出たのが4.0でした。この製品の値は4.92です。

ただし、この2つを並べて比べることはできません。トマトの試験は、資材そのものを測ったのではなく、塩を加えて濃さをわざと調整した土で育てたものです。

一方の4.92は、資材を乾かして分析した値です。測っているものが違うので、「この製品を使うと枯れる」という意味ではありません。

それでも、桁として近い数字が出ていることは、頭の隅に置いておく価値があります。


効いていたのは、値段ではなく「あく抜き」だった

8製品を、あく抜きしてあるかどうかで2つに分けてみます。カリウムの量で並べると、きれいに分かれます。

あく抜きカリウムの量(8製品それぞれ)
していない(3製品)1690.7 / 2269.3 / 1581.1
してある(5製品)596.6 / 1292.2 / 834.4 / 481.3 / 786.8

※単位は mg/100g。東京都農林総合研究センターの測定値。

あく抜きしていない3製品は、すべて1581を超えています。してある5製品は、すべて1292以下です。重なりがありません。

値段ではこうはなりません。66円の製品と195円の製品が同じグループに入り、150円の製品だけが別のグループに落ちます。

袋に書いてある「あく抜き」の3文字のほうが、値札より正確に中身を表していたということです。報告書も、価格と中身のあいだに一定の傾向は認められなかった、としています。


それでも、カリウムは多いまま

ここからが、この調査のいちばん厳しいところです。研究報告は、こう結んでいます。

価格やあく抜き処理、寝かせる工程の有無にかかわらず、調べたすべてのヤシガラでカリウムが多すぎた。だから、栽培にあたっては釣り合いの調整が必要と考えられる、と。

カリウムは肥料の三要素のひとつで、それ自体は必要なものです。問題は量ではなく、釣り合いのほうにあります。

カリウム・カルシウム・マグネシウムの3つは、根から吸い込まれるときに競争します。

カリウムが多すぎると、カルシウムとマグネシウムが吸われにくくなる。土の中には十分あるのに、植物には届かない状態です。

だから研究報告は、そのまま使うのではなく、石灰や苦土(マグネシウム)を補うことをすすめています。石灰にはいくつか種類があり、補いたい成分で選び分けます(→ 苦土石灰・消石灰・有機石灰の違い)。

高い製品を買っても、この問題は消えません。お金で解決できる部分と、できない部分があるということです。


粒の大きさで、役割が変わる

もうひとつ、選ぶときに効く要素があります。粒の大きさです。

同じ調査で、すき間のうちどれくらいが空気で、どれくらいが水かも測られています。

粒の大きさ空気の割合水の割合向いている使い方
細かい(2mm以下)40.5%50.5%水もちを持たせたいとき
中くらい(5mm角)61.4%35.4%バランスを取りたいとき
粗い(5mm角+粉+繊維)68.4%28.1%とにかく通気を優先したいとき

※東京都農林総合研究センターの測定値(土に水をしみこませた状態での割合)。

粗いほど空気が多く、水は少ない。当たり前のようですが、数字で見ると差がはっきりします。空気の割合で、40%台と68%は別物です。

もうひとつ注意点があります。粒が粗いほど、肥料をとどめておく力が弱くなります。水やりのたびに肥料が流れ出しやすい、ということです。

パーライトを混ぜて通気を上げるのと、似た考え方です。

ただしヤシガラは有機物なので、時間とともに形が変わっていきます(→ パーライトは粒径と配合率で決まる)。


では、どれを選ぶか

ここまでをふまえると、袋を手に取ったときに見る場所が決まります。

  • 「あく抜き」または「アク抜き」と書いてあるか。書いていなければ、塩けとカリウムが残っている前提で考える
  • 粒の大きさはどれか。細かいほど水もち、粗いほど通気。さし芽や種まきなら細かいもの、鉢底や大鉢なら粗いもの
  • 圧縮してあるか。調査では、圧縮されている製品ほど安い傾向がありました。かさばらない分、輸送費が下がるためです

値段は、この3つを確認したあとで見る。順番を逆にすると外します。

そのうえで、使う場面から逆算します。

こういうとき選ぶもの理由
さし芽・種まき・小さな鉢細かい粒(Sサイズ)水もちが必要。乾きが早いと発根前に枯れる
観葉植物・洋ラン・バラの植え込み中くらいの粒(Mサイズ)水と空気の釣り合いが取りやすい
大鉢・鉢底に敷く粗い粒(Lサイズ)水を抜くのが役目。とどめる必要がない
肥料もちを重視したい粗い粒は避ける粒が粗いほど、肥料をとどめる力が弱い

実際の製品でいうと、細かいものはおがくず状のSサイズが、さし芽や育苗用としてすすめられています。

観葉植物やバラに使うなら、5mm角のMサイズが標準です。どちらもあく抜き加工がしてあります。

ただ、無理に買い足す必要はありません。いま持っている袋に「あく抜き」と書いてあるなら、それで十分です。書いていない場合も、次に説明する方法で対処できます。


あく抜きしていないものを使うときは

安いものを買ってしまった、あるいは手元にあるものにあく抜きの表示がない。その場合の対処です。

製造元のフジックが、あく抜きのやり方そのものを公開しています。一晩水につけては水を替える。それを3〜4回くり返す、という方法です。

赤褐色の水が出なくなれば、渋み成分はかなり抜けています。手間はかかりますが、道具は要りません。

塩けとカリウムについては、水にさらす回数を増やすほど減ります。バケツに入れて、鉢底から水が透明になるまで流すだけでも効果があります。

そのうえで、カルシウムとマグネシウムを補う。これは高い製品を買った場合でも同じです。調査では、すべての製品でカリウムが多すぎたのですから。


わかっていないこと

正直に書いておきます。製造元は、ヤシガラチップについて次のように説明しています。

  • 3年から5年かけてゆっくり分解するので、窒素飢餓が起きない
  • タンニンを取り除いてあるので、根の成長をさまたげない

この2つを裏づける、公的機関や大学のデータは見つかりませんでした。製造元と販売元の資料にしか書かれていません。

ところが東京都の測定では、あく抜きベラボンは炭素が51.8%、窒素が0.69%でした。炭素が窒素の約75倍あるということです。

ふつう、これほど炭素にかたよった有機物を土に混ぜると、分解する微生物が窒素を先に使ってしまいます。植物に回る分が足りなくなる。窒素飢餓と呼ばれる現象です。

「起きない」という説明と、「起きてもおかしくない数字」が並んでいる。どちらが正しいかは、今の時点では判断できません。窒素飢餓が起きる可能性は、検討すべき課題として残っています。

使うときは、窒素分を含む肥料を切らさないようにしておくのが安全だと考えます。


まとめ

ヤシガラチップは、高いものほど良いというわけではありません。値段と中身は、別のものです。

ココヤシの殻には、もともと塩けとカリウムが含まれています。それを洗い流す工程が「あく抜き」です。東京都が8製品を測ったところ、この処理の有無で、中身がきれいに2つに分かれました。値段では分かれませんでした。

要点を整理します。

  • 1リットル66円の製品が、8製品中いちばん成績が良かった
  • 150円の製品がいちばん悪かった。あく抜きがされていなかったため
  • あく抜きしていない3製品は、カリウムがすべて1581以上。してある5製品はすべて1292以下
  • ただし、どの製品もカリウムは多すぎた。石灰と苦土を補う必要がある
  • 粒が粗いほど空気が多く、肥料をとどめる力は弱い
  • あく抜きしていないものは、一晩つけては水を替えるのを3〜4回くり返せばよい

塩けが残る → 根が水を吸えなくなる → 水をやってもしおれる。

カリウムが多すぎる → カルシウムとマグネシウムが押しのけられる → 足りているのに吸えなくなる。

→ これだから、値札より先に、袋の「あく抜き」の3文字を見ます。少なくとも今回の8製品では、値段よりもこの表示のほうが、中身の差をうまく説明していました。

次に園芸店へ行ったら、ヤシガラチップの袋を裏返してみてください。書いてあるかどうかを確かめるだけで、選び方が変わります。

参考文献

・坂本浩介・柴田彩有美・赤神沙織「市販ヤシガラの理化学性」東京都農林総合研究センター研究報告 p.61-62(生産環境科) https://www.tokyo-aff.or.jp/uploaded/attachment/5522.pdf

・東京都農林総合研究センター「ヤシガラを使った安定生産技術の普及に向けた診断基準の作成」 https://www.tokyo-aff.or.jp/uploaded/attachment/11260.pdf

・山口県農業技術部 花き振興センター「洋ランの植え込み資材改善および緩効性肥料による施肥体系の確立」 https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/uploaded/attachment/61365.pdf

・株式会社フジック「こだわりの特許」(あく抜き加工法・低タンニン植込み材料の特許、および家庭でのあく抜き方法) https://www.fujick.co.jp/patent/

・株式会社阪中緑化資材「ベラボン」(pH・炭素率・保肥力などの製品仕様) https://www.sakanaka.co.jp/products/products-1676/

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よた|YOTA PLANT BASE
植物の状態を「なぜそうなるか」で解説する園芸ブログを運営。

試行錯誤の中で再現性の低さに課題を感じ、感覚に頼らない「理屈で育てる園芸」を追求。
用土・水分・栄養の関係を軸に、構造とデータから再現性の高い栽培方法を検証しています。

農林水産省・研究機関の一次情報をもとに、初心者でも再現できる形で発信しています。

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