「培養土の袋の裏に、ダークピートと書いてある。ピートモスとは別のものなのだろうか」
そんな経験はありませんか。
観葉植物の土や種まき用の培土には、原料名がずらりと並んでいます。赤玉土、鹿沼土、くん炭。このあたりは名前を見れば見当がつきます。ところが「ダークピート」だけは、実物を見たことがない人がほとんどだと思います。
園芸店やホームセンターの棚を探しても、なかなか見つかりません。単体の袋で売られている場面が少ないからです。多くの人は、培養土の原料表示の中でしか、この名前に出会いません。
「ダークピートは、色が黒いだけのピートモスだろう」と考える人が多いと思います。その見方は半分あたっています。ただ、それだけでは説明できないことがあります。同じ袋の中にピートモスとダークピートが両方入っている製品があるのです。同じものなら、分けて入れる理由がありません。
実は裏側には、「同じ泥炭でも、掘る深さで中身が変わる」というしくみが関係しています。
この記事を読み終えると、原料表示に並んだ二つの名前が、それぞれ何の役をしているのかが分かります。そして、自分が持っている袋がどちら寄りなのかを確かめる方法も分かります。
ダークピートってなに?
まず、もとになる「泥炭」から確認します。岡山県が公開している資料に、こう書かれています。
「湖沼や低湿地に生育したヨシ、スゲ、ミズゴケなどの植物遺体が、低温や水分過剰などの分解が進まない条件下で長期間堆積して生成されたものである」
かみくだくと、こういうことです。水につかった冷たい場所では、枯れた植物が腐りきりません。腐らないまま何百年、何千年と積み重なる。それが泥炭です。
ピートモスも、ダークピートも、この泥炭から作られます。材料そのものは同じです。
ここで正直に書いておきます。「ダークピート」という言葉を、日本の土壌学の分類の中に探しました。国の資料や学会誌をあたりましたが、調べた範囲では、その区分は見当たりませんでした。公的な分類で使われていたのは、もとになった植物で分ける「高位泥炭土」「中間泥炭土」「低位泥炭土」、それに分解が進んだ「腐朽質泥炭土」といった分け方でした。
ダークピートは、園芸資材として流通するときの呼び名だと考えられます。黒ピート、ブラックピート、オールドピートと呼ばれることもあります。
泥炭は、掘る深さで中身が変わる
ここが今回の記事でいちばん大事な部分です。
わかりやすい例が落ち葉の山です。公園の隅に積まれた落ち葉を、手で掘ってみるところを想像してください。
いちばん上は、落ちたばかりの葉です。形も葉脈もはっきり残っています。少し掘ると、茶色くなって崩れかけた葉が出てきます。もっと深く掘ると、真っ黒でふかふかした土のようなものになっていて、もう葉には見えません。
湿原を掘っても、同じことが起きています。浅いところの泥炭は、植物のかたちが残っています。深いところの泥炭は、長い時間ぶんだけ分解が進んでいて、もとが何だったのか分かりません。
この違いを、国の資料は「目で見えるかどうか」で分けています。農林水産省の資料にこう書かれています。
「泥炭土は植物遺体が肉眼的に判定出来るもので、黒泥土は判別できないものである」
森林総合研究所の森林土壌博物館にも、同じ趣旨の記述があります。
「泥炭の分解がさらに進み植物組織が認められないものを黒泥層という」
境目は、顕微鏡でも試薬でもありません。「葉のかたちが見えるか、見えないか」です。
ピートモスとして売られているものは、この浅い側にあたります。袋を開けると繊維がほぐれて出てくるのは、まだ植物のかたちが残っているからです。ダークピートと呼ばれるものは、深い側。黒くて細かいのは、分解が進んだ結果です。
分解が進むと、中身の何が入れかわるのか
では、分解が進むと具体的に何が変わるのでしょうか。
北海道の泥炭土55点を調べた研究があります。帯広畜産大学の近藤錬三氏が1979年に日本土壌肥料学雑誌で報告したものです。この研究では、泥炭に含まれる成分を種類ごとに測り、分解の進み具合との関係を調べています。
ここで一つだけ、言葉を用意させてください。腐植酸です。植物が分解されていく途中でできる、黒っぽい物質のまとまりを指します。この記事の主役なので、名前だけ覚えておいてください。働きはあとで説明します。
結果は、はっきりした関係を示しました。
| 比べたもの | 腐植酸との関係 | 相関係数 |
|---|---|---|
| 繊維がどれだけ残っているか | 繊維が多いほど腐植酸は少ない | r = −0.758 |
| 腐植化度(分解の進み具合) | 分解が進むほど腐植酸は多い | r = +0.632 |
| C/N比 | C/N比が高いほど腐植酸は少ない | r = −0.728 |
相関係数は、二つのものがどれくらい連動しているかを表す数字です。1に近いほど「片方が増えるともう片方も増える」、−1に近いほど「片方が増えるともう片方は減る」という関係になります。上の3つはいずれも、偶然では起こりにくい水準の関係でした。
論文にはこう書かれています。
「泥炭の分解が進むと腐植酸量が増大し、それと対照的にホロセルロース量が減少するであろうことが推察された」
ホロセルロースは、植物の繊維をつくっている成分です。繊維が減った分だけ、腐植酸が増えていく。減るものと増えるものが、入れかわっています。
すぐには腐らず、繊維が残ったまま積み重なる
繊維が多く、腐植酸は少ない。これがピートモスとして売られる側
繊維をつくる成分が減り、代わりに腐植酸が増える
黒くて細かく、腐植酸が多い。これがダークピートと呼ばれる側
この「繊維が残っているかどうか」は、手で確かめられます。北海道大学が公開している湿地の用語集に、分解がどこまで進んだかを判定する国際的なものさしが載っていました。握って搾ったときの水の濁り方、指の間から押し出される量、そして植物のかたちがどれだけ見分けられるか。この3つを合わせて判定します。
| 分解の段階 | 握って搾ったときの水 | 指の間から出る量 | 植物のかたち |
|---|---|---|---|
| まったく分解していない | 透明で色がない | 出てこない | そのまま残っている |
| 中くらいまで分解 | 強く濁る | ごくわずか | 見えるが見分けにくい |
| かなり分解が進んだ | 強く泥のよう | 半分ほど | はっきりしない |
| 完全に分解 | 自由な水が残らない | ぜんぶ | まったく分からない |
腐植酸が増えると、土の何が変わるのか
腐植酸という言葉が続いたので、ここで整理します。
腐植酸は、植物が分解されていく過程でできる、黒っぽい物質のまとまりです。この物質には、肥料の成分をつかまえて土の中にとどめておく働きがあります。
岡山県の資料に、その関係が書かれていました。
「分解が進むと腐植酸が増加し、それに伴って陽イオン交換容量(CEC)が増加する」
陽イオン交換容量というのは、専門的な言い方です。中身は「肥料を土の中にとどめておく力」だと思ってください。この数字が大きいほど、水やりのたびに肥料が流れ出てしまうことが減ります。
つまり、こういう流れになります。
分解が進む → 繊維が減って腐植酸が増える → 肥料をとどめる力が上がる。
同じことが腐葉土でも起きています。落ち葉が分解されていく途中のどこで止めるかで、性質が変わる。完熟と未熟を見分ける話とつながっています(→ 腐葉土の完熟・未熟の見分け方)。
一方で、繊維が減るということは、すきまを作る力が落ちるということでもあります。ピートモスが土をふかふかにできるのは、繊維が絡み合ってすきまを作るからです。分解が進んで細かくなれば、その働きは弱まります。
どちらが優れているという話ではありません。担当が違います。
国は、腐植酸70%のところで線を引いている
ここで少し意外な話をします。
日本には、土壌改良資材の表示について国が定めた基準があります。「土壌改良資材品質表示基準」という農林水産省の告示で、地力増進法という法律にもとづいています。
この基準は、泥炭を二つに分けています。分ける基準は、腐植酸がどれだけ含まれているかです。ここは大事なところですが、これは泥炭という物質を科学的に二種類に分類したものではありません。「袋にどう書いてよいか」を決めた、表示のための区分です。
| 有機物中の腐植酸の含有率 | 袋に表示できる用途(主な効果) |
|---|---|
| 70%未満 | 土壌の膨軟化 土壌の保水性の改善 |
| 70%以上 | 土壌の保肥力の改善 |
同じ「泥炭」という名前で売られていても、腐植酸の量によって、袋に書いてよい効能が変わります。70%を境に、「ふかふかにする・水を持たせる」から「肥料をとどめる」へ、担当が切り替わる決まりになっています。
しかもこの基準では、泥炭を売るときに「有機物中の腐植酸の含有率」を表示しなければならないと決められています。あとで出てきますが、これが読者にとっていちばん実用的な手がかりになります。
ところが、70%に届く泥炭が見つからない
ここからは、調べていて引っかかった点を正直に書きます。
さきほどの近藤氏の研究には、55点の泥炭土それぞれの腐植酸の量が載っていました。種類ごとの平均は次のとおりです。
| 泥炭土の種類 | もとになった植物 | 腐植酸(有機物あたり) |
|---|---|---|
| 高位泥炭土(15点) | ミズゴケなど | 16.5% |
| 中間泥炭土(14点) | ヌマガヤ、ワタスゲなど | 30.8% |
| 低位泥炭土(26点) | ヨシ、ハンノキなど | 33.8% |
| 全55点の平均 | — | 28.3% |
ピートモスの原料になるのはミズゴケ由来の高位泥炭で、16.5%。分解が進んだ側の低位泥炭土でも33.8%です。
いちばん高い一点でも46.6%で、70%を超えた試料は55点の中に一つもありませんでした。
ただし、ここは慎重に読んでください。これは北海道の泥炭土を対象にした研究であって、園芸用に輸入されているダークピート製品そのものを測ったものではありません。しかも、この研究の測定方法と、国の告示が定める試験方法は別のやり方です。この数字をそのまま告示の70%という基準と比べることはできません。
つまり、この55点から「ダークピートも70%未満だろう」と考えるのは行きすぎです。調べた範囲では、その二つを結ぶ材料が見つかりませんでした。「ダークピートは腐植酸が多い」という説明は、方向としては合っています。しかし「だから70%以上の区分に入る」と考えるのは、この数字を見るかぎり早すぎます。
ここには注意が必要です。近藤氏の研究で使われた測定方法と、国の告示が定めている試験方法は別のやり方です。数字をそのまま並べて比べることはできません。研究の対象も、北海道の湿原から採った泥炭土であって、園芸用に輸入されている製品ではありません。
では、園芸用のダークピートの腐植酸は何%なのか。調べた範囲では、その実測値を示した日本語の資料は見つかりませんでした。「一般のピートモスより腐植酸を多く含む」という説明は、製品の紹介文には出てきます。ただし数字そのものは公開されていませんでした。
環境省の資料に、その背景を思わせる記述があります。日本国内の泥炭の採掘について、「採掘面積、採掘重量、採掘体積等の全体を信頼ある精度で把握できるデータが存在していない」と書かれていました。かみくだくと、国内でどれだけ掘られているのかを、国も正確につかめていないということです。園芸用のピートの多くは輸入品です。国内の試験の対象になりにくい事情がありそうです。
では、どれを選ぶか
ここまでを、選ぶときの視点にまとめ直します。
| ピートモス(浅い層) | ダークピート(深い層) | |
|---|---|---|
| 分解の進み具合 | 浅い。繊維が残っている | 進んでいる。繊維が少ない |
| 見た目 | 茶色くて繊維質 | 黒くて細かい |
| 得意なこと | すきまを作る/水を持たせる | 肥料をとどめる |
| 苦手なこと | 肥料をとどめる力は弱い | ふかふかにする力は弱い |
| よく使われる場面 | 土をふかふかにしたいとき | 種まき・育苗用の培土 |
| 買いやすさ | 園芸店で袋入りが手に入る | 単体では見かけにくい |
現実的な話をします。ダークピートを単体で探して買う場面は、家庭園芸ではほとんどありません。袋で並んでいるのを見かけること自体が少ないからです。
出会うのは、たいてい培養土の原料表示の中です。だから選ぶ対象は「ダークピートを買うかどうか」ではなく、「その培養土が何を狙って配合されているか」になります。
原料表示にピートモスとダークピートが両方書かれていたとします。すきまを作る役と肥料をとどめる役を、別々の材料に分担させた配合だと読めます。ダークピートだけが書かれていて種まき用と書いてあれば、細かさと保肥力を優先した土だと考えられます。
そして、いちばん確実な手がかりがあります。国の基準では、泥炭を売るときに「有機物中の腐植酸の含有率」の表示が義務づけられています。袋の裏を見れば、その製品がどちら側なのかを、推測ではなく数字で確認できます。
使うときに気をつけること
泥炭という材料には、ピートモスでもダークピートでも共通してついて回る性質があります。
一つめは乾燥です。国の告示には、泥炭のうち保水性の改善を表示するものについて、施用上の注意を書くよう定められています。その文言がこれです。
「この土壌改良資材は、過度に乾燥すると、施用直後、十分な土壌の保水性改善効果が発現しないことがあります」
この注意書きは、保水性の改善を表示する泥炭に向けたものです。言っているのは「効果がすぐには出ないことがある」までで、取り返しがつかないとまでは書かれていません。
もう少し強い書き方をしているのが岡山県の資料で、「一度乾燥させると保水性が著しく低下する」とあります。カラカラに乾かすと、水を吸いにくくなります。鉢の上から水をやっても、表面をつたって流れ落ちるだけになる。この現象と対処法は、ピートモスの記事で詳しく書きました(→ ピートモスは乾かすと水をはじく、その理由と対策)。
二つめは酸性です。岡山県の資料に、「泥炭は酸性なので、中和されていないものは消石灰を加えて、pHを調節する必要がある」とあります。市販の培養土は、調整済みのものがほとんどです。資材そのものを混ぜるときは酸度の調整が要ります(→ 苦土石灰・消石灰・有機石灰の違いと使い方)。
三つめは効き続ける長さです。同じ資料に「分解は遅いので連年施用する必要はなく、2〜3年に一度施用する方が効果的である」と書かれています。毎年足す必要はありません。
まとめ
ダークピートは、ピートモスとは別の材料ではありません。同じ泥炭を、分解が進んだ深い層から掘り出したものです。
湿原に積もった植物は、深いところほど長く分解を受けています。分解が進むと繊維をつくる成分が減り、代わりに腐植酸が増える。腐植酸が増えると、肥料をとどめる力が上がります。
分解が進む → 繊維が減って腐植酸が増える → すきまを作る力が下がり、肥料をとどめる力が上がる。
だから、浅い層は「ふかふかにする・水を持たせる」役、深い層は「肥料をとどめる」役になります。国の基準も、腐植酸70%を境にして、袋に書ける効能そのものを分けています。
→ これだから、同じ袋にピートモスとダークピートが両方入る。
ただし、ダークピートの腐植酸が実際に何%なのかを示した日本語の資料は、調べた範囲では見つかりませんでした。「腐植酸が多い」という説明は、方向として受け取っておくのが正確だと思います。
明日からできること。
- 培養土の袋の裏の原料表示を見る。ピートモスとダークピートが両方書かれていれば、すきまを作る役と肥料をとどめる役を分けて配合した土です。
- 泥炭の袋を買うときは「有機物中の腐植酸の含有率」の表示を探す。国の基準で表示が義務づけられている項目です。70%を境に、その資材の得意なことが変わります。
- 泥炭を含む土は、カラカラに乾かさない。一度完全に乾くと水を吸わなくなります。乾ききる前に水をやるほうが、あとの手間が減ります。
参考文献
- 農林水産省「土壌改良資材品質表示基準」(昭和五十九年十月一日 農林水産省告示第二千二号/最終改正 平成一二年八月三一日 農林水産省告示第一一六四号)
https://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/k0000035.html - 近藤錬三「北海道における泥炭土壌の化学的性状に関する研究(第5報)泥炭土の有機物組成」日本土壌肥料學雜誌 50巻6号 p.547-554(1979年)
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010201098.pdf - 岡山県「第6章 政令指定土壌改良資材の使い方」
https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/423596_2723158_misc.pdf - 森林総合研究所 立地環境研究領域「泥炭土群 Pt(Peat soil)|森林土壌博物館」
https://www.ffpri.go.jp/labs/soiltype/peat/peat_top.html - 農林水産省「土壌の生成と種類」(環境保全型農業 施肥基準 参考資料)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/ntuti4.pdf - 北海道大学 大学院地球環境科学研究院「Peat(泥炭)」(von Post 分解度スケール)
https://hosho.ees.hokudai.ac.jp/tsuyu/top/dct/peat.html

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